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精神科病院への長期入院処遇改善の要望書(関連団体、医療扶助・人権ネットワーク)10/8

精神科病院への長期入院処遇改善の要望書
関連団体、医療扶助・人権ネットワーク(代表:山川幸生)は、栃木県の特定の精神科病院に入院する患者からの要請により、平成24年12月から本日までに25人の退院に関与してきた経験から、主に東京都内の複数福祉事務所が、 (1)  本人の意思に反して、そもそも県外の病院であることを知らせず、 (2) 都内には多数の精神科病院があり、遠方の栃木県の精神科病院でなければ治療できない疾病ではないにもかかわらず、 (3)  任意入院でありながら閉鎖…病棟での処遇が常態化しており、及び本人からの退院の希望があることを知りながら、 (4)  当ネットワークが関与した場合には、入院患者の多くが短期間の内に退院していることから、そもそも入院継続の必要性さえ疑われるなか、 (5)  入院患者に対する面会をしないなど、実態把握を怠り (6)  必要以上に長期入院をさせていたのではないか との懸念があり、その懸念は、憲法第25条、同13条の観点からも問題があり、生活保護法、同実施要領等に照らしても不当なのではないかと思料し、生活保護法第23条の監査及び指示を行うように厚生労働省及び当該病院への入院を処遇した生活保護の実施機関のある東京都・神奈川県・栃木県に対して要望書を提出しました。
要 望 書 2014年10月8日 厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿 東京都知事 舛添 要一 殿 神奈川県知事 黒岩 祐治 殿 栃木県知事 福田 富一 殿 医療扶助・人権ネットワーク    (代表)弁護士 山 川 幸 生  司法書士 後 閑 一 博  弁護士 中 川 素 充  弁護士 森 川   清  弁護士 内 田   明  (連絡先)                 〒160-0004            東京都新宿区四谷3-2-2 TRビル7階 マザーシップ法律事務所        医療扶助・人権ネットワーク      (事務局長)弁護士 内 田  明
第1 要望の趣旨    生活保護法第23条1項及び同2項に基づき、生活保護の実施機関に対し、以下のとおり、監査及び指示を行うよう求める。
1 精神科病院に入院中の生活保護受給者のうち、入期期間180日を超える長期入院患者について、入院継続の必要性を確認するよう指示すること。
2 退院を希望する患者については、退院に伴い必要な措置を講じるよう指示すること。
第2 要望の理由
1 はじめに    医療扶助・人権ネットワーク(以下「当団体」という。)は、生活保護受給者の長期入院の問題などを取り扱う法律家の団体である。    平成24年11月頃、栃木県の精神科病院(以下「甲病院」という。)に任意入院中(当時)のAより「退院したいが病院が退院させてくれない。」という相談を受けたことがきっかけで、それ以来、甲病院に入院する患者の退院の支援を行っており、現在まで25名の入院患者の退院の支援を行ってきた。    当団体は、25名の入院患者の退院を支援してきた経験から、以下の懸念を抱いている。すなわち、①保護の実施機関(特に東京都内の一部の福祉事務所)は、処遇困難であると判断した生活保護受給者を精神科病院に長期入院させることにより、事務作業の負担軽減を図っていないか、②病院側も、経営の安定を図るため、医療費の支払いが確実な生活保護受給者を必要以上に長期間にわたり入院させていないか、という懸念である。    本件のような精神科病院の入院(特に長期入院)に関する問題は、単に精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)の問題だけではなく、前述①②のような構造的な問題が懸念されるのであって、単に個々の入院患者の支援だけでは根本的な解決に繋がらないと考え、生活保護受給者の精神科病院の入院に関する実態調査及びその改善を求め、本要望書の提出に至った。    以下、当団体の支援活動を通じて明らかになった問題点を説明する。
2 任意入院でありながら患者本人が退院を申し出ても退院できないこと    任意入院患者の退院は原則として自由であり、「精神科病院の管理者は、自ら入院した精神障害者・・・から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならない」(精神保健福祉法第21条2項)。例外的に72時間に限り退院制限が許されるが(同法第21条3項)、入院継続の必要性がある場合でも72時間超えて入院を継続するためには、医療保護入院など強制入院の手続を取らなければならない。    しかしながら、当団体の支援対象者の大半は任意入院患者であったが、患者本人が担当医師、看護師、または医療相談員に退院の希望を伝えても、退院の手続を取らない例が散見され、事実上、法律家の支援がなければ退院ができない状態であった。    このような実情を踏まえ、保護の実施機関は、精神保健福祉法第21条に反する違法な事態が生じないよう努め、定期的に入院患者の意思を確認することが求められる。 ※( )は生活保護の実施機関・入院期間を意味する。
Aの証言(台東区・約6か月)    甲病院には何度も退院したいと申し出た。院長は「いつでもいい。」というが、オーナー(病院の事実上の責任者で精神科医)は「1年は入院してもらわないと困る。」と言い、取り合ってくれなかった。 Jの証言(川崎市・約8か月)    オーナーに退院したいと告げると、「病気が治っていないから1年いろ。」、「農園で金を稼いでから出て行け。」などと取り合ってもらえなかった。    なお、甲病院の看護記録によれば、平成24年5月21日、「S:退院したいです。前の病院に戻って働いていきたいんです。O:ワーカーと上記話されている。退院希望あり。」と記載されてり、病院側も、Jの退院意思を認識していたことがわかる。    平成24年12月10日、当団体がJと面談して病院側に退院を申し入れたことにより、Jは退院した。 Xの証言(足立区・約2年8か月)    入院翌日、Xは、閉鎖病棟と聞いていなかったので、院長に「退院しても良いですか。」と相談したところ、院長は「いいよ。」と言ったので、足立区の福祉事務所に電話し、「退院するから。」と伝えた。福祉事務所の担当者は、「病院から何も聞いていないから。」と言い、その後、退院の話は何も進まなかった。
3 保護の実施機関による長期入院患者の実態把握の必要性    「社保第72号 別紙-長期入院患者実態把握実施要領」(生活保護手帳2014年度版834頁)によれば、医療扶助による入院患者であって、その入院期間が180日を超える者について、当該入院患者を実態把握対象者名簿に登載する(同要領「実施方法 ①準備作業」)。 そして、嘱託医が入院要否意見書等に基づき、ⓐ入院継続の必要があるもの、ⓑ入院継続の必要性について主治医等の意見を聞く必要のあるものに分類する(同要領「実施方法 ②書面検討ア」)。ただし、嘱託医の書面検討は、要否意見書等の内容等から、明らかに入院医療の必要性が認められる者以外は、入院医療の必要性について主治医等の意見聴取の対象となる(生活保護手帳2014年度版836頁「『医療扶助における長期入院患者の実態把握について』に基づく実態把握の実施方法及び結果の報告に係わる留意事項」)。 担当員は、明らかに入院医療の必要性が認められる者以外について、主治医等の意見聴取を行い、医療扶助による入院継続を要しないことが明らかになったものについて、速やかに、当該患者を訪問して実態を把握し、退院に必要な措置を講じるものとされている(同要領「実施方法 ③実地検討」)。    しかしながら、後述4のとおり、上記要領は当団体が把握する限りにおいて全く順守されておらず、入院継続の必要性の確認は形骸化しており、入院患者の訪問による実態把握や退院に伴う必要な措置の実施が講じられていない。
4 保護の実施機関により入院継続の必要性は確認されていたのか    当団体が退院を病院側に申し入れた場合には、即日退院が認められることが大半であり、退院時点において、入院継続の必要性がない事案がほとんどであった。 例えば、平成24年12月10日、任意入院患者であったA、B、C、H、I及びJは、当団体の申入れにより、即日退院が認められた。また、同日、医療保護入院していたGも、当団体の申入れにより、即日退院が認められた。    したがって、保護の実施機関による入院継続の必要性の確認が形骸化していた可能性があり、改善が求められる。    なお、精神科病院における「入院期間の短縮化は全国的な傾向」であり、「多くの病院において、新規入院患者の約50%が約3か月で退院し、1年で85%が退院していくのが平均的な傾向」(高柳功・山角駿「改訂精神保健福祉法の最新知識歴史と臨床実務」202頁)という指摘もあるが、当団体の支援対象者25名のうち10名が1年以上の入院期間であった。また、最長は約5年であった。 Gの証言(台東区・約1年2か月)    平成23年10月に埼玉県の病院から甲病院に転院した(任意入院)。    16種類16錠の薬を飲まされていて、意識が朦朧となり、歩行すら困難となった。入院中、病名、治療方針、薬についての説明を求めても医師より回答がなく、「薬を減らして欲しい。」という要望も聞き入れてもらえなかった。    オーナーに退院を申し入れても「桃栗三年柿八年」、「だから3年は入院してもらう」などと言い、退院を認めてもらえなかった。    平成24年10月26日に医療保護入院となったが、平成24年12月10日、当団体の申入れにより、即時に任意入院に変更され、同日退院した。 Jのケース(川崎市・約8か月)    「人に追われている」という妄想が生じ、品川区の診療所(以下「乙診療所」という。)の紹介により、平成24年4月19日、甲病院に任意入院した。    入院初日のカルテには、「あの他人あぶない」、「包囲攻ゲキ」など、幻覚妄想の存在をうかがわせる記載があるが、その後、カルテにはJの幻覚妄想の存在をうかがわせる記載はなく、むしろ「特に問題なし」(4/25、10/17)や「退院したいと言う よいとは思うが〇○○(アパート)に代金持って確保してある。薬は、〇の眠剤は必要と思う。(注:〇は読み取れず)」(5/23)という記載から、早い段階でJの状態が安定していたことがうかがわれる。    ところが、甲病院から川崎市に提出された2通の医療要否意見書によれば、「入院外医療が困難な理由」として、「幻覚妄想、盲のため行動障害」(4/23、8/22)という記載がなされている。幻覚妄想が継続していたかのような記載であり、カルテの記載と整合しない。    本人が何度も退院を申し出たにもかかわらず、病院側は退院の手続をとらなかったが、平成24年12月10日、当団体がJと面談して病院側に退院を申し入れたところ、即日退院が認められた。
5 特別な事由もないのに都道府県域をまたぐ入院が実施されていること    「生活保護法による医療扶助運営要領に関する疑義について」(昭和48年5月1日付け社保第87号厚生省社会局保護課長通知)の「県外入院の取扱い」(問6)によれば、たとえ患者が遠隔地の入院を希望した場合であっても、「患者の希望する指定医療機関が遠隔地にあるため、交通費を必要とし、または必要な調査および指導を行ううえに支障をきたし、しかもその医療機関以外の近隣の指定医療機関でも十分医療の目的を果たせるような場合には、患者の希望のみによって医療機関を選定することは適当ではない。」とされ、そもそも「都道府県域をまたぐ入院は不適当であるとされている」(総務省・平成26年8月生活保護に関する実態調査結果に基づく勧告43頁)。    当団体の支援対象者の多くは、台東区や品川区など東京都内で生活保護を受給していた者であるが、支援対象者からの聴取内容や4名の支援対象者の診療記録等からは、東京都内や近郊の精神科病院ではなく、あえて栃木県の精神科病院に入院させなければならない特別の事由(例えば、当該病院でなければ治療ができない疾病であるなど)の存在は確認できなかった。 また、当団体の支援隊対象者25名のうち16名が乙診療所を経由して甲病院に入院していた。甲病院に入院させるため、わざわざ県外の乙診療所を受診させた事例もあった(Jのケース・川崎市)。理由は不明であるが、長期入院患者を受け入れてくれる甲病院に入院させるため、あえて乙診療所を受診させる手法が、保護の実施機関内で共有されていた可能性がある。
(保護の実施機関の内訳)    台東区 11例    品川区 5例   荒川区 2例    江戸川区 1例    墨田区 1例   足立区 1例    練馬区 1例     川崎市 1例   栃木市 1例    生活保護受給者ではない 1例
Bの証言(台東区・約11か月)    生活環境の変化により不眠となり、乙診療所に通院していたが、医師より、大きな精神病院で本格的に検査をすべきだと言われ、甲病院を紹介された。    平成24年1月17日、ケースワーカーが寮までタクシーで迎えに来て、そのまま詳しい説明もなく、甲病院へ連れて行かれた。 Jのケース(川崎市・約8か月)    「(Jが当時入所していた無料低額宿泊所の職員との)協議の中で、(甲病院への)入院という案が挙がった。(甲病院へ)入院するには、(乙診療所からの)紹介状が必要とのことであったため、(乙診療所の)医療券を主に発行した」(川崎市のケース記録・平成24年4月13日の記載)。
6 その他の問題点    任意入院の場合には、自らの同意による入院であるから、原則、開放病棟で処遇することが望ましいとされているが(精神保健福祉研究会「精神保健福祉法詳解3訂」211頁)、当団体の支援対象者の多くは閉鎖病棟で処遇されていた。閉鎖病棟による処遇が原則化しており、甲病院が入院先として適切かどうか再検討が必要である。    また、当団体の支援対象者の多くは、投薬量の多さも口にしていた。担当医に相談しても、投薬量を減らしてもらえなかったという証言もあった。もちろん投薬の要否は医学的な問題であり医師の専門的判断に依拠せざるを得ないとしても、患者の理解を得て行われるべきであるし、投薬量は医療費の問題に関わることから、医療扶助の適正の観点から、保護の実施機関は、不必要な投薬が行われないよう注意し、医師と意見調整することが求められる。
7 人権上も大いに問題があること    生活保護における医療扶助(生活保護法第11条第4号)は、憲法第25条によって保障されている生存権に基づくものであり、健康で文化的な最低限度の生活水準を維持するものでなければならない(生活保護法第1条、第3条)。ここでいう「最低限度の生活水準」は、単に生命の維持ができればよいというものではなく、その内実として被保護者の人権を尊重し、個人の尊厳(憲法第13条)を保つことのできる内容のものでなければならないことは当然である。    しかしながら、当団体の支援対象者のケースをみると、特別な事由もないのに遠方の病院に送られ、任意入院でありながら退院を希望しても精神保健福祉法第21条の規定を無視する形で退院をすることができず、入院継続の必要性にも疑問があり、閉鎖病棟による処遇が原則化しているなど、人身の自由(憲法第31条以下)を確保する観点からも大いに疑問があり、被保護者の個人の尊厳(憲法第13条)は大きく損なわれている状況にあると言っても過言ではない。こうした人権上問題のある行為が生活保護の医療扶助の制度の運用のもとで行われているのであるが、それは憲法第25条及び生活保護法によって保障されている「最低限度の生活水準」を維持するものとは到底いえず、被保護者の生存権は全くないがしろにされているといわざるをえない。    当団体が指摘しているような医療扶助の運用について、個人の尊厳を保つことのできるものに改善することは、被保護者の生存権を保障する憲法上の要請である。
第3 結語   当団体の支援対象者の多くに共通してみられた属性は、住所がない者、無職の者、親族との関係が疎遠な者、刑事施設の入所経験のある者、施設内で人間関係に関するトラブルを起こしていた者であり、これらの属性の複数に該当することも多かった。当団体は、保護の実施機関がこれらの属性を有する者を類型的に処遇困難者であると判断し、遠方であるにもかかわらず、あえて長期入院を受け入れてくれる甲病院を選び、乙診療所を経由して甲病院に長期入院させ、事務作業の負担軽減を図っているのではないかという懸念を抱いている。    患者の人権の問題はもちろんのこと、医療扶助の適正の観点から、精神科病院の入院は、治療に必要な範囲において実施されるべきであり、処遇困難者の対応の負担軽減のために利用してはならないのは当然である。    かかる懸念を払拭するためには、生活保護受給者の入院(特に長期入院)に関する実態を把握することが不可欠であるから、御庁に対し、その実態調査及び改善を求めるものである。
以上 https://www.evernote.com/shard/s266/sh/c2f3cfed-b000-427e-bc94-80f3f0ac6d81/c073eebdf8b48cd72ed15cc63ae1b536